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Japanese
2019.08.02 FRI - 2019.08.31 SAT

PEOPLE OF DAY & NIGHT [NIGHT]小橋賢児☓齋藤精一

#OTHER

小橋:僕は昔、東京湾のそばに住んでいました。仕事でも、昨年まで僕がクリエイティブ・ディレクターを務めていた「ULTRA JAPAN」をお台場で開催していたことなど、この海に縁があります。海外だと、人々は海が近いことに価値を持っていて、都会でもオーシャンマインド。日本人はどちらかといえば、まちへ心が向かいがちです。このへんはいま倉庫街で普段行かない場所になりつつあります。すごくもったいないですね。
今回、この「Hi-NODE」のプロジェクトにお声がけいただいたとき、皆さんの「これからもっとここの海を楽しくしていきたい」「身近にしていきたい」という思いに触れました。僕らが行っているイベント「ULTRA JAPAN」や「STAR ISLAND」を、お台場でやりたいと思ったのは、同じような理由があります。東京湾沿岸は、都会でありながらすぐに非日常に飛び込める良さがあって、そういう環境ってすごく大事だと思います。東京に暮らす人達はこんないい場所があるって知っていながら実際足を運ばない。「Hi-NODE」は駅からすぐそばですし、「東京にこんな海辺を感じられる場所がある」って思うきっかけづくりの場になればいいなと思います。

齋藤:僕は、逆に今まで東京湾でイベントなど何かしたことはないです。個人的な思い出は…釣り(笑)。この辺ならシーバス釣りに行きますね。あと屋形船。10年以上前、会社を設立する前に、浅草橋にアトリエを借りていました。浅草橋って屋形船の発着所があるですが、当時、そこからたまに乗りました。そんなとき、都度、海っていいもんだな、って思っていました。けれど、東京のど真ん中に海資源があるのにあまり活用されていませんよね。東京は水害の歴史もあって、海辺も運河も川も、全部に背を向けて、建物を建てた。オーシャンビューなんて概念はほぼありません。安心安全な公共づくりをしたのが東京湾の現実で親水性のある場所が本当に少ない。アメリカのボストンみたいに一家に一台ヨットがあるくらいの親和性があってもいいのに、と思います。

小橋:車とちがって、東京湾や東京の河川では、船が自由に停泊できないっていうことも大きいですよね。

齋藤:実は僕、最近葉山に引っ越したんですよ。

小橋:いいなぁ!めちゃめちゃ羨ましい。

齋藤:仕事場である東京から家が離れると、通勤時間が長くなったり、駅から車なので酒が飲めないとかいろいろネガティブ要素もあるけど、僕は葉山に引っ越してよかったなぁと思ってます。さっき小橋さんがおっしゃっていましたが、海が近いという価値じゃないですか。プライスレスな価値というか、海が人生を豊かにしてくれそうな気がします。東京にもこんなに豊かな海があって、楽しめるということにやっと気がついたことで「Hi-NODE」という場所になったのかもしれません。

小橋:ここは日の出桟橋の船着場しかなくて、船に乗る人しかやってこない場所ですよね。

齋藤:用事がなければ来ない場所。以前、仕事でこのあたりに来たのですが、ランチできるところを探すのにも一苦労しました。逆にいうと「ここに来よう」というモチベーションが高い人が集まると、カルチャーが生まれる可能性がありますよね。

小橋:これだけ、夜景と海を感じられるオープンな場所でイベントもやれる開放感があるところって東京湾沿岸でそうなかった気がしますよね。海外では毎週末、こんな場所でイベントが行われているんです。マルシェやってパーティやってって…。

齋藤:船上レストランもすごく多いですしね。今後、海を活用していこうというムーブメントがあるから、楽しみですね。

小橋:このへんも倉庫街をライトアップして景観を楽しんでもらったり、浅草行きの隅田川沿いも空いている屋上もあって、まだまだ水辺を楽しむ余白がありそうなんです。船もただの移動手段ではなく、もっと「楽しもう」っていうモードに変わってくるのかなって思います。

齋藤:表現で政治まで動かす国もありますからね。表現が持つ力でマインドやルールを変えることは不可能ではないと思います。

小橋:「Hi-NODE」はそんな「良い事例」になりえる場所だと思います。うちの会社ではここのオープニングパーティを担当することになっています。

齋藤:僕は、この水辺に船を浮かべてステージにして、陸・海・空からみんなで楽しめるイベントができたらいいなぁと思っています。しかし、調べていくとなかなか難しそうですね。高速道路のど真ん中に車を停車させるようなものだって。

小橋:イベントをやる度に思うのですが、カルチャーってある程度、まちに余白がないと生まれないと思います。つくろうと思ってつくれるものじゃない。

齋藤:いまはみんな余白を消そう消そうとしますからね。都会でも有象無象がうごめく場所があるじゃないですか。それをみんなつぶして、平地にしてピカピカのビルに立て直して。でも、日の出桟橋のあたりはそんな余白がたくさんある。そこに魅力を感じています。この余白で何をしたいですかね?

齋藤:ここに提案したいのは「釣り堀バー」。ゆるいやつ(笑)。かしこまったレストランもいいけれど、旨い酒とつまみが出てきて、何時間でも居られそうなバーが欲しいです。気づいたらもう夜中の2時だね、みたいな。まったり夜中まで語り合える場所が意外とないんですよね。水辺って不思議とずっと居られる場所。ハレとケだったらケの部分ですよね。日常の部分がここにあったらいいなと思います。

小橋:あと、単発でイベントをするだけではなくて、待合所や壁などが、若手アーティストの表現の場になるといい気がします。ここで行き交う人によって、どんどん様変わりしていくような。海外のレストランだと飾っている絵画がそのまま購入できるじゃないですが、購入して交流してというやりとりがここでも出来たら素敵ですよね。アートギャラリーのような、ここで生まれたアートのお披露目の場になって、交流を生んでいけたらいいと思います。

撮影:木村和平

小橋賢児Profile
LeaR 株式会社代表取締役。クリエイティブディレクター。1979年、東京都生まれ。1988年に俳優としてデビューし、NHK朝の連続テレビ小説「ちゅらさん」など、数多くの人気ドラマに出演。2007年に芸能活動を休止。世界中を旅しながらインスパイアを受け、映画やイベント製作を始める。2012年、長編映画「DON’T STOP!」で映画監督デビュー。同映画がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてSKIPシティアワードとSKIPシティDシネマプロジェクトをW受賞。また「ULTRA JAPAN」のクリエイティブ・ディレクターや「STAR ISLAND」の総合プロデューサーを歴任する。「STAR ISLAND」はシンガポール政府観光局後援のもと、シンガポールの国を代表するカウントダウンイベントとなった。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会主催の「東京2020 NIPPONフェスティバル」のクリエイティブ・ディレクターにも就任。さらにキッズパーク「PuChu!」をプロデュースするなど、世界規模のイベントや都市開発などの企画運営にも携わる。

齋藤精一Profile
Rhizomatiks Architecture主宰。1975年神奈川県生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNYで活動を開始。その後Arnell Groupにてクリエイティブ職に携わり、2003年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。フリーランスのクリエイターとして活躍後、2006年に株式会社ライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。現在、2018-19年グッドデザイン賞審査委員副委員長、ドバイ万博クリエイティブアドバイザー。